進んでいく時間、止まったままの時間。震災によって重ならなくなった過去と現在を抱えながら、歳を重ね、大人になっていくあの時の子供たち。彼らには「もうみんな十分苦しんだ」と、そのための物語が必要だったと、誰か気付いていただろうか。
この町に生きたどの人の悲しみも、痛いほど分かるそのみさんは、どんな台詞を書くことにも苦しんだだろう。その分、映画の中で聞こえてくる声たちは、おだやかに、まっすぐに、あなたも私も幸せに生きていくことを肯定したいと訴えている。止まったままの時間との距離が開いていく未来を、恐れなくていいと教えてくれる。
大川小学校の校舎に差す夕暮れは、同じ光の中で過ごした人たちの記憶を映し出す。きっと、ずっとこの先も変わらないと思える光を、そのみさんは撮れる人だ。大川の記憶をそんな風に映画を観る私たちに分けてくれる。
映画も、人と同じように歳を重ねていく。『春をかさねて』と『あなたの瞳に話せたら』が、この先も長く観続けられる映画として、劇場公開されることを心から祝福しています。